シガー・ロスの軌跡

シガー・ロスの軌跡

Michael Chapman
執筆者: Michael Chapman
認証済みスペシャリスト

2013年、アムステルダム公演でのシガー・ロス

ビヨークとオブ・モンスターズ・アンド・メンの他、アイスランド出身の有名アーティストといえばポストロックバンド、シガー・ロスでしょう。彼らは15年以上ドリームポップとアンビエントミュージックの定義を変え続けてきました。

レイキャビク生まれのシガー・ロスのメンバーは、音楽的には少し不思議な集まり。「シガー・ロスの音楽は天国を思わせるようなアイス氷河や活発な火山噴火などを表現し、その魔法のような感情溢れる音楽は世界中の人々の心に潤いを与えてくれる。」NMEローリング・ストーンといった音楽界を代表するメディアはシガー・ロスの母国、アイスランドの自然と比較してこのように評しています。

1994年に結成のバンドで、リードヴォーカルはヨン・ソゥル・ビルギッソン(Jón Þór "Jónsi" Birgisson)(通称ヨンシー)、ベース担当はゲオルグ・ホルム(Georg Hólm)。この2人が結成当時からのメンバーで、他のメンバーは多少の入れ替わりがありました。シガー・ロスというバンド名はヨンシーの妹の名前Sigurrósに由来します。アイスランド語では、シーグルロスと発音するポピュラーな女の子の名前です。はアイスランド語で「勝利の薔薇」という意味があります。

1998年から2013年まで、キャルタン・スヴェィンソン(Kjartan Sveinsson)はキーボードをはじめ、ティンフルート、オーボエやバンジョーなど、色んな楽器を演奏しました。当時、キャルタンはシガー・ロスの音楽の特徴である独特で珍しい楽器音を担当していました。

2008年レイキャビク公演でのゲオルグベースを弾くゲオルグ"Popplagið"2008のコンサートで。 Wikimedia. Creative Commons. 写真: Janus Bahs Jacquet.

1999年、バンド結成以来のドラム担当だったアウグスト・アイヴァル・グンナルソン( Ágúst Ævar Gunnarsson)が退き、代わりにオーリ・パゥル・ディラソン(Orri Páll Dýrason)がメンバーとなりました。そして、注目すべきセカンドアルバムが収録されました。キャルタンとオーリはそれ以来「ザ・ローンサム・トラベラー(The Lonesome Traveler)」という別名の下、シガー・ロスの音楽をアコースティックなスタイルで演奏し、今までのトラックを新しい形で発信しました。シガー・ロスのメンバーの誰もがが従来の音楽の枠を超えようとしていたのが明らかにわかるアルバムです。

シガー・ロスはアンビエント/ドリーム/ポストロックのジャンルの枠だけでなく、自分達の音楽の枠を越えようと挑戦し続けました。彼らの音楽はダイナミックであり、冒険的です。

「ぼくたちは永遠に音楽を変え、人々の音楽についての考え方も変える。できないと思われても、必ず変えて見せる。」

1999年にリードヴォーカリストのヨンシーの言った言葉。彼らの音楽を通してしっかりと感じることができるはずです。


15年もの間、レコーディングとツアーを繰り返し世界で活躍するシガー・ロス。国を飛び出し活躍する彼らはアイスランドの誇りです。常に若手アーティストの可能性を育み、機が熟したら世界への舞台へと飛び立ち、観客を魅了する。

アイスランドは小さな国ではありますが、こうして他には類を見ない世界を魅了するアーティスト達を送り出してきました。

弓でギターを弾くヨンシーエレキギターを弾くヨンシー。 Wikimedia. Creative Commons. 写真: José Goulão

シガー・ロスは音楽を超えた文化的影響力も大きく、ザ・シンプソンズやゲーム・オブ・スローンズなどのテレビ番組にもゲスト出演しています。彼らの音楽は2006年のワールドカップや2012年のロンドンオリンピックなどの国際的なスポーツイベントを始め、キャメロン・クロウの「バニラ・スカイ」やマット・ロスのコメディー映画「はじまりへの旅」を含む数多くの作品でも使われています。

テレビでもシガー・ロスの音楽が色んな番組で使用されていることに気づくはずです。

しかし、シガー・ロスの独特の音楽のルーツは、1970年代のロックバンドのブラック・サバス、アイアン・メイデンやシンガーソングライターのレナード・コーエンにありました。

このハードロックやヘヴィメタルの響きにインスピレーションを受けたヨンシーは、13歳の時にギターを始めました。この瞬間がシガー・ロスのストーリーの本当の始まりです。バンドの将来の成功だけでなく、アイスランドという国の立場と音楽そのものの性質や可能性にも影響を与えるバンドの誕生の瞬間でした。

シガー・ロスの誕生     

バンドの結成は偶然とも言えます。音楽の教育を受けたことのあるメンバーはキャルタンだけ。ヨンシーは、他のメンバーが歌えないという理由で、リードヴォーカリストとして選ばれました。ヨンシーが有名なチェロの弓でギターを弾いて特徴的な音を生み出したのも、ゲオルグがベースでその音を出すことができなかったからです。

このような理由ではありましたが、メンバーは音楽活動には積極的でした。

ヨンシーは90年代初期にストーンド(Stoned)と言うヘヴィメタルバンドで演奏した経験がありました。シガー・ロスとしてバンドを正式に結成した後も、ヨンシーとキャルタンはビー・スパイダーズ(Bee Spiders)と言う別名で活動することもあり、音楽実験(Musical Experimentations)コンテストで1995年「最も面白いバンド(Most Interesting Band)」賞を受賞。シガー・ロスとしてだけでなく、様々なミュージックシーンに顔を出しては、観客を虜にしていたのです。

シガー・ロス初期のプロモ写真写真: sigur-ros.co.uk

1994年に、シガー・ロスはレコードレーベル「バッド・テイスト」と契約しました。アイスランドのポストロックバンド「シュガーキューブス」が所有するレーベルで、英国生まれのプロデューサー、ケン・トーマス(Ken Thomas)にシガー・ロスの音楽をすぐ紹介しました。ヨンシーの作り声が10代の女子に人気が出ると思われたのです。

この時、トーマスはクイーンのレコーディングに関わるなど音楽業界では順調にキャリアを積んでいました。後には、マーティン・ラッシェントやバズコックスなどのパンク系ミュージシャンと仕事を始め、「フィルス・レコーズ(Filth Records)」に移ってからは、23Skidoo、Clock DVAやシュガーキューブスとコラボしています。シガー・ロスのファーストアルバムの制作には関わっていませんが、後に重要なコラボレーターとなり、バッド・テイストの存続に貢献した人物です。

アイスランドの特徴、苔に寝そべるシガー・ロス写真: sigur-ros.co.uk

シガー・ロスの初期の音楽は、ザ・ヴァーヴ(The Verve)やスマッシング・パンプキンズ(Smashing Pumpkins)などのバンドの影響を受けて、90年代のオルタナティブロックを追っていました。そこから演奏を続ける間に、時々新しいスタイルを取り入れながら、今のスタイルへとたどり着いたのです。

Von (希望), 1997     

ファーストアルバム、Von(希望)は1997年にリリースされましたが、1年経ってもこのアルバムは国内で313枚しか売れませんでした。

アルバムが完成した時にバンドメンバーはそれを一緒に聴き、次はもっとインパクトのある曲を作ることを決意。この思いはセカンドアルバムの最後の歌詞に表現されています。

「ぼくたちは座って、自分たちのリズムに乗った演奏を聴く。でも音は良くなかった。みんなそう思っている。次回はうまくいく。これは良い始まりだ。」

これからもどんどん自分たちの音楽の限界を超えていこうとする正直な姿勢がストレートに表れている歌詞です。

現在、Vonはアイスランドのプラチナレコードとなり、1万部以上の売り上げを記録。それでもこれは後のアルバムの成功には遠く及びません。Vonのほとんどがアンビエントで、後に大きな特徴となるシガー・ロスの自信に満ちた音が欠けています。アルバムの表紙は、ヨンシーの妹が赤ちゃんの時の写真です。

翌年の1998年にはリミックスアルバムVon brigðiをリリースしました。アイスランド語で「希望と失望」または「希望のバリエーション」の二つの意味があり、このアルバムの題名としてはピッタリです。その年に新しいキーボード担当のキャルタン・スヴェィンソン( Kjartan Sveinsson)がバンドに加わり、今後の作品に大きな影響を与えます。

Von (1997) 

  1.  Sigur Ros   (Victory Rose, 9.47)
  2. Dögun   (Dawn, 5.50)
  3. Hún Jörð …   (Mother Earth, 7.18)
  4. Leit að lífi   (Search for Life, 2.34)
  5. Myrkur   (Darkness, 6.14)
  6. 18 sekúndur fyrir sólarupprás   (18 Seconds Before Sunrise, 0.18) 
  7. Hafssól   (The Sea's Sun, 12.24)
  8. Veröld ný óg óð   (A World, New and Crazed, 3.29)
  9. Von   (Hope, 5.12)
  10. Mistur   (Mist, 2.16)
  11. Syndir Guðs (Opinberun frelsarans)   (Sins of God, Revelations of the Saviour, 7.38)
  12. Rukrym   (Ssenkrad, 8.59) 

Agaetis Byrjun (良き船出), 1999     

セカンドアルバムのÁgætis byrjun(良き船出)によってシガー・ロスは国際的に注目されはじめます。シガー・ロスの創造的な生まれ変わりとも言われるこのアルバムは、新しい方向性を持ったバンドの魅力を表現しています。

エレガントな管弦楽法、柔らかいファルセットのヴォーカルと、ヨンシーがチェロの弓でギターを演奏する弾む音。新しい魅力がつまったセカンドアルバム Ágætis byrjunはその名の通り、シガー・ロスの良き船出を象徴するものでした。

Ágæti byrjunのアルバムカバー

アルバムは瞬く間にアイスランドのプロデューサーたちの関心を集め、シガー・ロスの音楽は全国で放送されました。インターネットの掲示板や口コミなどで、シガー・ロスは世界各地の音楽メディアで紹介され、初のショートリスト・ミュージック賞を受賞。アルバムが国内でリリースされた1年後の2000年にはイギリスでもリリースされました。

この大成功したアルバムですが、その裏にはちょっとした事件がありました。音楽が完成してから、バンドメンバーは自分たちで最初に売り出すアルバムの糊付けをしました。これにより、多くのCDに接着剤の跡が残ってしまい、再生不可能の状態になってしまったのです。幸い、ファンたちは寛大な心でシガー・ロスの活躍を見守り、この事件がアルバムの売り上げに影響することはありませんでした。

こうしてシガー・ロスは世界へと活動の場を広げていったのです。

Ágætis byrjun (1999)

  1. Intro (1.36)
  2. Svefn-g-englar   (Sleepwalking Angels, 10.03)
  3. Starálfur   (Staring Elf, 6.45)
  4. Flugufrelsarinn   (The Fly's Savior, 7.47)
  5. Ný batterí   (New Batteries, 8.09)
  6. Hjartað hamast (bamm bamm bamm)   (The Heart Pounds, Boom Boom Boom, 7.09)
  7. Viðrar vel til loftárása   (Good Weather for an Airstrike, 10.16)
  8. Olsen Olsen (8.02)
  9. Ágætis byrjun   (A Good Beginning, 7.55)
  10. Avalon (4.01)

(), 2002      

アルバム()は、レイキャビクの隣町、モスフェルスバイル(Mosfellsbaer)の新しくデザインされたスタジオで収録されました。ここで録音された最初のシガー・ロスのアルバムです。

当初、彼らはアイスランド北部の山にある放棄されたNATOの基地で作曲し、収録を行うという野望を持っていました。

しかし実際に行ってみると、とてもスタジオとして使える場所ではなく、プロデューサーのケン・トーマスは、代わりにバンドの音楽活動に合ったスタジオを自宅に近いところに作ることを提案しました。

()を模したストリートアート

こうして、元々は美術館であり、使用されてない公共プールを改造して、自分たちの思うままのスタジオを作りました。建物の上の階はミキシング/コントロールルームとして利用し、下の階は収録専用のスペースにしました。

()というタイトルを見ればわかるように、3枚目のアルバムには名前はありません。収録されている曲のほとんどは、はっきりとした歌詞が無くホープランディック(Hopelandic)という「言語」で歌われています。

このヨンシーの作ったホープランディックという言語には語彙も文法もありません。ヨンシーは自分の声を楽器のように使っており、わかりやすく言うと、メロディーは決まったが歌詞はこれから書くという作詞家が発声する言語なのだそうです。「ホープランディックで歌う時、ぼくの伝えている言葉や音は変わりません。どちらかとアイスランド語より英語に似ています。ただ、翻訳はできないんです。」

はっきりと意味を持つ歌詞が存在しないなかでも、伝えることがある。

これはシガー・ロスというバンドが進化し続ける魅力のひとつです。このアルバムは心に響く深い音が魅力です。

こんなにも大きな挑戦をしながら、バンドメンバーは曲に不満に感じながら収録を行っていました。業界からのプレッシャーもあり、アルバムの表紙はエレガントですが空虚感が漂っています。多くのファンはこのアルバムが音楽ジャンルの新しいフロンティアになると主張した反面、前回のアルバムほど素晴らしくないという声もありました。

() (2002) 

  1. Untitled ("Vaka")   (Orri's Daughter's Name, 6.38)  
  2. Untitled ("Fyrsta")    (The First Song, 7.33)
  3. Untitled ("Samskeyti")   (Joint, 6.33)
  4. Untitled ("Njósnavélin")   (The Nothing Song, 7.33)
  5. Untitled ("Álafoss")   (Location of the band's studio, 9.57)
  6. Untitled ("E-Bow")   (8.48)
  7. Untitled ("Dauðalagið")   (The Death Song, 13.00)
  8. Untitled ("Popplagið")   (The Pop Song, 11.44)

Takk... (Thanks...), 2005       

Takk…(ありがとう)は4枚目のアルバムで、前回の無題のアルバムとは違う雰囲気の新しい作品です。歌詞は、ホープランディックで歌われている3曲("Andvari"、 "Gong" 、 "Mílanó")以外は全て アイスランド語で歌われています。

リリースから一週間でアルバム販売数は3万枚、アメリカ合衆国のビルボード200で27位にランクイン。1年後にはイギリスで1万枚を販売、英国レコード産業協会によりゴールドに認定されました。

Takk…は初めてシガー・ロスの音楽を聴く人にとって、最も親しみやすいアルバムです。ホルン、ピアノ、ベースの音を多く取り入れながら、弦楽器のアンサンブルを多用したことにより、とても鮮やかで新鮮な音楽を作り出しています。

以前は長い曲が多かったのですが、このアルバムの曲の多くは5分以内に収まっています。シガー・ロスは主流となっている音楽界の基準に沿いながら、そこを土台に音楽を作ろうとしていたのでしょう。

しかし、今までのシガー・ロスのスタイルがなくなったわけではありません。ユニークで一部の人だけに受け入れられていた、いわば影のような音楽から、より多くの人の心に訴える音楽へと成長したのです。このアルバムはアイスランド・ミュージックアワード、ベストアルバムデザイン賞、ベスト・オルタナティブ・アクト賞、ベスト・ロックアルバム賞の3つの賞を受賞しています。 

チェロの弓でギターを弾くFlickr.  写真: Rosario López

アリバムに収録されている曲はあらゆるメディアで使用されてきました。BBCのプラネットアースやスポーツ番組のマッチ・オブ・ザ・デーなどはほんの一例です。

Takk... (2005) 

  1. Takk...     (Thanks... 1.57)
  2. Glósóli   (Glowing Sole, 6.15)
  3. Hoppípolla   (Hopping into Puddles, 4.28)
  4. Með blóðnasir   (With a Nosebleed, 2.17)
  5. Sé lest   (I See a Train, 8.40)
  6. Sæglópur   (Lost at Sea, 7.38)
  7. Mílanó   (Milan, 10.25)
  8. Gong   (Gong, 5.33)
  9. Andvari (Zephyr, 6.40)
  10. Svo hljótt (Go Quietly, 7.24)
  11. Heysátan (The Haystack, 4.09)       

Med sud i eyrum vid spilum endalaust, (残響), 2008 

4枚目のアルバムTakk…の成功を踏まえて、このアルバムではクラシックな管弦楽法をベースに、ポップミュージックを作りだしました。

このアルバムでは、オーソドックスなギターのリフ、安定したリズムや遊び心を感じるアコースティックなどのフォークな響きが目立ちます。アルバムはFloodとの共同制作で、ニューヨーク、ロンドン、キューバで収録されました。

元々歌詞は英語でしたが、母国語のアイスランド語の方がより自然であると気付きました。そうして、何曲かは収録後にアイスランド語に変更され、なかには歌詞の書き直しが必要な曲もありました。しかし、このアルバムでは初めてヨンシーの英語のファルセットの囁きが聴けるということで、外国のファンには新たな印象を与えるチャンスとなったのです。

このアルバムの曲はポップカルチャーにどんどん浸透していきました。ダニー・ボイルの「127時間」やニール・ジョーダンの「オンディーヌ海辺の恋人」などの映画を始め、 2010年のオリンピックを特集するBBCの番組でも使用されました。ローリング・ストーンが「最も世俗的で、多彩で思いやりのある、彼らの急速に進化し続けるロック」と主張するぐらいに、このアルバムは世界的に高い評価を得ました。

ですがアルバムのツアー後、スタジオに戻ったメンバーたちは収録した曲に不満を感じており、新たなプロジェクトを追求するためにシガー・ロスの活動は休止となったのです。

ヨンシーは、パートナーであり映像制作者であるアレックス・サマーズ(Alex Somers)と協力しソロ活動を開始。初のコラボレーションアルバムのRiceboy Sleeps (2009)とデビューアルバムのGo (2010)を制作しました。この時、ヨンシーは2010年のアニメ/コメディー映画「ヒックとドラゴン」で最も有名な曲Sticks and Stonesを披露しています。

Með suð í eyrum við spilum endalaust (2008)

  1. Gobbledigook  (3.08)
  2. Inní mér syngur vitleysingur"  (Within me a lunatic sings, 4.05)
  3. Góðan daginn   (Good morning, 5.15)
  4. Við spilum endalaust    (We play endlessly, 3.33)
  5. Festival   (9.24)
  6. Með suð í eyrum    (With a buzz in our ears, 4.56)
  7. Ára bátur   (Row boat, 8.57)
  8. Íllgresi   (Weeds, 4.13)
  9. Fljótavík (A wide bay in Hornstrandir, Iceland, 3.49)
  10. Straumnes (the name of a tidal headland near Fljótavík, 2.01)
  11. All Alright (6.21)

Valtari (遠い鼓動), 2012   

Valtariは夢のような雰囲気のコレクション。ヨンシーのファルセットが焦点ではなく、彼の声は全体の音楽を支える楽器のように使われています。

ピアノと弦楽器の繊細な音とムーディーな歌声で、音の景色を、見事に表現する曲が完成しました。

しかしValtariは曲のメリハリが無いという弱点があります。それはシガー・ロスがひとつのスタイルに固執し、自らの限界を超えようとしなかったかのようです。Ágætis byrjunでは音楽界に新風を吹かせたシガー・ロスですが、Valtariはバンドの努力不足のアルバムと評価されることもあります。

その一方で、シガー・ロスは「ミステリー映画実験」というタイトルで面白いコンテストを開催しました。映画制作者やファンは、Valtariの曲に合わせてミュージック映画を作りコンテストに出展、優秀作品に選ばれたらシガー・ロスのアルバムに関われるという企画でした。

「映画監督がどのような作品を制作するのか全くわかりません。本人たちも他の参加者がどのような作品を作るのかわからないので、面白くなりそうです。」メンバー達は自分たちの音楽にどんな映像がつけられるか、楽しみにしていた様子です。

先ほどの短編映画「フョグル・ピアノ(Fjögur Píanó)」はシャイア・ラブーフ(Shia LeBeouf)主演のアルマ・ハレル(Alma Harel)監督の作品です。

おそらくValtariから一番強く感じられるコンセプトは「終結」でしょう。多数の絶賛されたアルバム、ライブショーや世界ツアーがあり、シガー・ロスはポストロックのパイオニアとして活躍してきました。彼らの音楽は進化し続けてきましたが、このアルバムはキーボード担当のキャルタンと結成メンバーでの最後のアルバムとなりました。

Valtari (2012) 

  1. Ég anda   (I Breathe, 6.15)
  2. Ekki múkk   (Not A Sound, 7.45)
  3. Varúð   (Caution, 6.37)
  4. "Rembihnútur   (Tight Knot, 5.05)
  5. Dauðalogn   (Dead Calm, 6.37)
  6. Varðeldur   (Campfire, 6.08)
  7. "Valtari"   (Roller, 8.19)
  8. "Fjögur píanó   (Four Pianos, 7.50)

Kveikur (2013)       

ビジュアルでも魅了するシガー・ロスFlickr.  写真: Rosario López

Kveikurは、キャルタン不在のシガー・ロスの最初のアルバムであるとともに、新しいレーベルでのもとで作られた作品です。今までのポップやアンビエントのスタイルではなく、3人組のバンドはキャルタンのキーボードの音を、よりヘヴィーなドラムの音や工夫されたベースラインで置き換えました。

歌詞を書き、曲を収録している時点で、残りのメンバー自身が変化する節目を迎え、自問自答しながら新たな挑戦をしたアルバムです。

Kveikurはシガー・ロスが新しく生まれ変わったとも言えるアルバムとなりました。


Kveikur (2013) Track Listing:
  1. Brennisteinn   (Brimstone, 7.45)
  2. Hrafntinna   (Obsidian, 6.24)
  3. Ísjaki   (Iceberg, 5.04)
  4. Yfirborð   (Surface, 4.20)
  5. Stormur   (Storm, 4.56)
  6. Kveikur   (Candlewick, 5.56)
  7. Rafstraumur   (Electric Current, 4.59)
  8. Bláþráður   (Thin Thread, 5.13)
  9. Var   (Was, 3.45)

現在のシガー・ロス         

シガー・ロスのアルバム、Kveikurのリリースから4年。新たなアルバムのリリースは予定されていないものの、世界を飛び回り精力的に活動しています。日本でも2016年のフジロックに出演するなど、様々なシーンで彼らの音楽に触れることができます。

2017年はシガー・ロスの全世界ツアーでの活躍の年です。まずアメリカ全州のコンサート会場で公演し、今年7月にはオセアニアに向かい、ニュージーランド、オーストラリア、韓国と日本で公演しました。それからは、ヨーロッパと南米でのコンサート、ツアーの最後に地元のレイキャビクで締めくくりです。コンサートのチケットはこちらから購入できます。


シガー・ロス レイキャビク公演

2017年12月27日、28日、29日、30日

会場:ハルパ・コンサートホール

チケット購入はお早めに!(リンク先のページ下部)


年末のシガー・ロスのコンサートに行けなくても、まだチャンスはありますので大丈夫です!シガー・ロスはもう新しいアルバムには挑戦しないと言いつつも、アメリカでのツアー中に新曲- Niður -を披露しています。12月にアイスランドで計画されている6日間フェスティバルでも披露される予定です。ノルズル・オグ・ニズル(Norður og Niður)というこのフェスティバルでは、シガー・ロスの公演を始め、アート作品の展示や映像展示会などが楽しめます。

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