ウェストフィヨルド・西フィヨルド
アイスランドの左上に突き出た、くねくねとした半島。扇型のような、手の形をしたような不思議なエリアは、ウェストフィヨルドというアイスランドでも最も人のいないエリアのひとつです。
このエリアは観光で訪れる人も比較的少なく、日本ではあまり話題となる場所ではありません。そのためか名称も統一されておらず、西フィヨルド、西部フィヨルド、ウェストフィヨルドなど様々な呼ばれ方をしています。
ウェストフィヨルドは国道1号線から外れており、レンタカーで行くのもちょっと大変で時間が要ります。何しろフィヨルドや山を越えて移動できる横断する道がないので、一度入り込んでしまったらひたすらフィヨルド沿いにくねくねと運転するしかないのです。
海と空、そして山々が織りなす美しい景色を見ながらの2日間、または3日間のドライブとなります。
美しい場所が多くあるウェストフィヨルドですが、このようなアクセスの難しさのため、実際訪れる人はアイスランドの他のエリアに比べ少ない場所です。また、人口の少なさから道路は主要な道であっても未舗装のこともあります。ウェストフィヨルド行きのバスやツアーは数が少ないので、レンタカーがお勧め。レンタカーが無い場合には、フライト付きの1泊2日ツアーなどが便利です。
絶景スポットの数々
ラゥトラビャルグとディンヤンディ滝はウェストフィヨルドの人気の場所。またフィヨルドの南西端にある美しいロイジサンドゥルという赤い砂のビーチも訪れてみる価値があります。
ラゥトラビャルグ Látrabjarg
ラゥトラビヤルグ(Látrabjarg)はパフィンなどの野鳥が多く生息している岬です。夏の間アイスランドでコロニーを形成するパフィンは小さな渡り鳥です。岬には千羽を超えるパフィンがおり、すぐにその姿を見ることができるはずです。人間への警戒心が少なく近づくことも容易ですが、決して野生動物にえさを与えたり触ったりせず、見るだけにしましょう。
また、パフィンは地中に巣を掘るため、周辺の地面は非常に脆く崩れやすくなっています。パフィンの巣や崖には近づかないようにしましょう。
Photo from Látrabjarg in the Westfjords - the Largest Sea Bird Cliff in Europe, by Regína Hrönn Ragnarsdóttir
ラゥトラビャルグはアイスランドの最西端でもあり切り立つ崖の高さは400m以上もあります。かつてこの岬で船が難破した際、ラゥトラビャルグは勇敢なアイスランド人の活躍の舞台となりました。イギリスのトロール船がラゥトラビャルグの崖に乗り上げ、緊急の救助が必要となりました。海へとたどり着く道はなく、崖のはるか下で救助を待つ船乗りたちは絶望の淵にいました。ここで活躍したのが地元の農民たちです。崖に巣を作るパフィンの卵を食料とし収集することが常だった農民たちはロッククライミングのスキルに長けていました。彼らのおかげで船乗りたちは一命を取り留めたのです。
ディンヤンディの滝 Dynjandi
ディンヤンディ(Dynjandi)の滝は、ウェストフィヨルドを代表する大きな滝です。山肌を流れ落ちる様子は見ごたえがありますが、この滝はひとつだけでなく、下流にはいくつもの小さな滝が連なっています。アクセスは難しくありませんので、レンタカーで旅行の際にはぜひ訪れてみましょう。イーサフィヨルズルの町からもバスツアーがあるのでレンタカーが無くても訪れることができます。
ロイザサンドゥル Rauðasandur
写真:Regina
ウェストフィヨルドの南側にあるロイザサンドゥル(Rauðasandur)の砂浜は、他のビーチとは随分違い、赤褐色の砂浜が広がっています。アイスランドの多くの海岸は、火山噴火の堆積物により黒い砂であることが普通で、レイニスフィヤラのブラックサンドビーチのように黒い砂浜が広がっています。ロイザサンドゥルは対照的に褐色の砂浜です。
この浜辺はロイジサンドゥル(Rauðisandur)と呼ばれることもありますが、どちらも正しい名前として認識されています。その語源についても、アイスランド語の「赤い砂浜」という説もあれば、かつてそのエリアの有力者だった「赤いアゥルモゥズル」という人物に由来しているという説もあります。
ロイザサンドゥルは未舗装の状態の悪い道を進む必要があるので、ある程度のスペックの車で行くのが良いでしょう。Reginaのブログも参考に注意して訪れてください。
ウェストフィヨルドは、アイスランドの中でも特にアクセスが難しい場所です。時間もかかりますし、それなりの準備と計画が必要です。それでも、ウェストフィヨルドならではの、他では見られない魅力がたくさんつまったエリアです。
ホルンストランディル Hornstrandir
Photo from Wikimedia, Creative Commons, by Silverkey
ウェストフィヨルドの最北端にホルンストランディル自然保護区(Hornstrandir Nature Reserve)があります。イーサフィヨルズゥルからフェリーで行くことができますが、道路はなく、フェリー以外では何日もハイキングをするしか方法はありません。以前は農民や漁師が住んでいましたが、近隣の町へ移り住む人は後を絶たず、20世紀初頭に最後の住民が立ち去ると動植物のパラダイスとなりました。1975年に自然保護区が設立され、今ではハイキングやキャンプを楽しむ人々の人気の場所となっています。
このエリアは、北極キツネの住処となっており、アイスランドの珍しい野生動物に出会える場所です。北極キツネはヴァイキングが定住する以前からアイスランドにいた、唯一の陸上の哺乳動物です。夏は灰色の毛皮ですが、冬には真っ白な毛皮に生え変わります。
ウェストフィヨルドの温泉
Photo from Hot Pools in the Westfjords of Iceland, by Regína Hrönn
ウェストフィヨルドはアイスランドの他のエリアより古い時代に形成され、活発な火山もありません。そのため地熱活動や温泉は比較的少ない場所です。とは言っても20か所以上の温泉が湧き出ています。
一番アクセスがいいのはウェストフィヨルドの南側にあるヘットルロイグ(Hellulaug)です。スナイフェルスネス半島へ渡るフェリー、Baldur号の港のそばにあります。半島の北東部にあるグヴェンダルロイグ(Gvendarlaug)も便利です。ホテル・ロイガルホットル(Hotel Laugarhóll)の隣にありすぐに見つかります。
ウェストフィヨルドの小さな町々
イーサフィヨルズゥル(Ísafjörður)はウェストフィヨルドの中心の町です。人口約2600人の小さな港町ですが、湾の両側には切り立った山がそびえたち、迫力のある景色を眺めることができます。
毎年春に、イーサフィヨルズゥルではアルドレイ・フォル・イェグ・スーズル(Aldrei fór ég suður)という音楽フェスが開催されます。ムーギソン(Mugison)をはじめ、アイスランドのバンドが勢ぞろいします。冬は日照時間がアイスランドで一番少なく、夏は太陽が何週間も沈まない町。大自然に囲まれた素朴な街並みに、虜になる人も少なくありません。
イーサフィヨルズルの先にあるボルンガルヴィーク(Bolungarvík)。ちょうど道の突き当りに位置する小さな村で、以前は雪崩などの危険があった海岸線の道しかありませんでした。現在はイーサフィヨルズルからのトンネルが開通したため、安全に移動できるようになりました。ウェストフィヨルドでは積雪も多く雪崩の危険が大きいため冬の旅行はお勧めできません。
Photo from Hólmavík in the Westfjords of Iceland - the Sorcery Town,
ウェストフィヨルドの付け根にあるホルマヴィーク(Hólmavík)は、面白い町です。ここには魔術博物館があり、アイスランドと魔女や魔術師の関係についての展示があります。実はアイスランドも魔女狩りとは無縁ではなかったのですが、アイスランドで糾弾されたのは主に男性だったそうです。不思議なマーク入りのお土産もあります。
写真:Kuna
そのほかに、漁村のスーズルエイリ(Suðureyri)、フラトエイリ(Flateyri)、シンクエイリ(Þingeyri)があります。家とボートが多少あるくらいの小さな村ですが、穏やかな景色は魅力的です。
Photo from Wikimedia, Creative Commons, by Brad Weber
パトレクスフィヨルズゥル(Patreksfjörður)はウェストフィヨルドの南にあり、ディンヤンディの滝やラゥトラビャルグまで1時間から2時間の距離にあります。町にはプールもあり、前述の温泉にも近い場所です。
また、町には海賊博物館と民俗博物館があります。アイスランドと海賊、というつながりはあまりイメージできないかもしれませんが、17世紀頃にはアイスランドは海賊の標的となっていました。多くの住民が殺害されたり、奴隷として捕まえられました。その生存者の証言からアイスランドの知られざる苦難の歴史の一面を見ることができます。
Photo from 3 Days of Fun at Reykholar in the Westfjords of Iceland
レイクホゥラル(Reykhólar)は住人120人ほどの小さな村ですが、周辺には美しい景勝地が多くあり訪れる価値があります。海岸には多くの野鳥がおり、町の博物館ではウェストフィヨルドの人々の生活を知ることができます。厳しい地理条件のウェストフィヨルドでは、野鳥やその卵、アザラシなどが主な食糧だったそうです。
また海藻の加工工場もあり、食べ物や燃料、薬、肥料などに加工しています。なんと、海藻風呂もあるのだそうです。
フラタエイリは、巨大な台形の山がそびえる小さなコミュニティです。レストランが1軒、プールがひとつ、新しく作られたジャグジー風呂、そして「意味なし博物館」があります。英語でNonsense Museumと呼ばれるこの博物館には、世界中から集められた不思議なアイテムが揃っています。
旅の仕方
冒頭でも紹介した通り、そのロケーションと人口の少なさから旅をするのは一筋縄ではいきません。特にレンタカーを利用しない場合、ツアーの有無やフライト/バスのスケジュールも合わせて確認する必要があります。ですがレイキャビク発のツアーもありますので、リサーチさえしっかりすれば楽しめる場所です。
レンタカーを利用する場合には、訪れる季節と日程に注意が必要です。アイスランド一周と兼ねて訪れること場合には、2週間ほどの期間が必要となります。例えばこちらの14日間セルフドライブツアーのような日程であれば、アイスランド一周もウェストフィヨルド滞在中も余裕を持って楽しめます。
また、町が少なく規模が小さいウェストフィヨルド。町の中のホテルだけでなく、コテージを利用するのもお勧めです。ウェストフィヨルドの大自然の中のこじんまりとしたコテージで過ごすひと時。1人旅でも、グループでも楽しめること間違いなしです。Bungaloのウェブサイトでは地図からコテージの場所を検索できるので便利です。
ちょっとアクセスは難しいけれど、一度は行ってみたいウェストフィヨルド。関連ツアーは下記リンクから検索できます。
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